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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)38号 判決

原告 山中義雄

被告 大阪地方裁判所

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

被告が原告に対し、昭和五二年三月一四日付をもつてなした懲戒免職処分を取消す。

二  被告

1  本案前の申立

主文と同旨。

2  本案に対する申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  本案前の主張

1  被告

本件訴えは、行政事件訴訟法(以下、行訴法という。)一四条一項所定の出訴期間を徒過した違法な訴えである。すなわち、最高裁判所は、昭和五三年九月六日、被告が原告に対し、昭和五二年三月一四日付をもつてなした懲戒免職処分(以下、本件処分という。)に対する審査請求につき本件処分を承認する旨の判定をなし、その判定書は昭和五三年九月一三日原告に送達された。右判定は、行訴法一四条一項に規定する裁決に該当するのであるから、本件処分の取消訴訟は、右判定書が原告に送達された右同日から三か月以内に提起されるべきところ、本件訴えは、右期間経過後である昭和五四年四月二一日に提起されたので、不適法なものというべきである。

2  原告(被告の主張に対する反論)

本件訴えは、出訴期間を遵守した適法なものである。すなわち、本件訴えの出訴期間は、最高裁判所の審査請求に対する判定を不服として再審の請求をなした場合には、これに対する判定のあつたことを知つた日から進行するものというべきところ、本件訴えは、後記のごとく再審の請求に対する判定書の送達された日である昭和五四年二月五日から三か月以内の同年四月二一日に提起されたものであるから、出訴期間中に提起されたものというべきであつて、何ら瑕疵はなく適法な訴えである。

なお、最高裁判所が審査請求につき本件処分を承認する旨の判定をなし、その判定書が昭和五三年九月一三日に原告に送達されたことは認める。

二  請求の原因

1  原告は、昭和四八年四月一日、被告に採用された裁判所事務官であつたが、被告は原告に対し、本件処分をなした。

2  しかし、本件処分は、その前提となる事実認定に誤りがあり、結論に至る推理の過程に著しい不合理、社会観念上妥当を欠く点があり、また、平等、比例原則に反し裁量権の限界を逸脱、濫用するものであつて、違法である。

3  原告は、本件処分について最高裁判所に審査請求をなし、同裁判所が昭和五三年九月六日になした右審査請求についての判定に対し再審の請求をなし、昭和五四年一月三一日、右再審の請求について、再審請求の理由に当らないから不適法であるとして却下の判定がなされ、その判定書は同年二月五日原告に送達された。

4  よつて、原告は、本件処分の取消しを求める。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

本件処分は、裁判所職員臨時措置法により準用される国家公務員法八二条三号により、処分権者である被告が適法になしたものである。

3  同3は認める。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本案前の主張(本件訴えの出訴期間の遵守)について

被告は、本件訴えは原告が本件処分についての最高裁判所の審査請求に対する判定がなされたことを知つた日から三カ月の出訴期間を経過した後に提起されたもので不適法であるから却下されるべきであると主張し、原告は、本件訴えは右審査請求に対する判定を不服としてなした再審の請求に対する判定がなされたことを知つた日から三か月以内に提起されているから適法な訴えである旨抗争するので検討する。

原告は、昭和四八年四月一日、被告に採用された裁判所事務官であつたところ、被告は原告に対し、昭和五二年三月一四日付をもつて本件処分をなしたこと、原告は、本件処分を不服として最高裁判所に対し審査請求をしたところ、最高裁判所は昭和五三年九月六日、本件処分を承認する旨の判定をなし、その判定書は同年九月一三日原告に送達されたこと、さらに、原告は、最高裁判所に再審の請求をしたが、最高裁判所は昭和五四年一月三一日、右請求をその主張にかかる理由が再審の理由に当らないから不適法であるとして却下し、その判定書は同年二月五日原告に送達されたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、本件記録によれば、原告が本件訴えを提起したのは同年四月二一日であることは明らかである。

ところで、行訴法は、処分取消しの訴えの出訴期間について、処分又は裁決があつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならない(一四条一項)と規定し、右期間は、処分又は裁決について審査請求(審査請求、異議申立てその他の不服申立てをいう。行訴法三条三項。以下、同じ。)ができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨教示した場合には、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する(一四条四項)と規定しているところ、本件において、原告が最高裁判所に対してなした再審の請求についての判定が、行訴法一四条四項所定の審査請求に対する裁決に当るかどうかが問題となる。

そこで、裁判所職員臨時措置法、裁判所職員に関する臨時措置規則によつてそれぞれ準用される国家公務員法、人事院規則一三―一(不利益処分についての不服申立て)に規定される職員の意に反する不利益な処分に関する審査手続に関する規定を概観してみるに、職員は、懲戒処分等の不利益処分を受けたとき、最高裁判所に対してのみ行政不服審査法による不服申立て(審査請求又は異議申立て)をすることができること、右不服申立てについては、行政不服審査法第二章第一節から第三節までの規定を適用しないこと、不服申立てを受理した最高裁判所は、同裁判所又は公平委員会の調査を経たうえ、国家公務員法九二条の規定に従い、処分を承認するなど適当な措置をとらなければならないこと、最高裁判所の右判定は、最終のものであつて、最高裁判所によつてのみ審査されること、右審査手続として、人事院規則一三―一第七節において再審の請求手続が規定されていること、再審の請求は、当事者双方(被処分者及び処分者)から、右規則五七条各号所定の理由、すなわち、公平委員になることができない者(右規則一八条二項)が、公平委員として審理に関与したことが判明したとき、判定の基礎となつた証拠資料が偽造又は変造されたものであることが判明したとき、判定の基礎となつた証人の証言、当事者の陳述又は鑑定人の鑑定が虚偽のものであることが判明したとき、審理の際証拠調べが行われなかつた重大な証拠が新たに発見されたとき、判定に影響を及ぼすような事実について、判断の遺脱があつたとき、の一に該当する場合に請求することができるものであること、再審の請求は、判定のあつた日の翌日から起算して三か月以内に再審請求書を、請求の理由を証明するに足りる資料とともに最高裁判所に提出しなければならないこと、最高裁判所は、再審査請求書の記載事項及び再審の理由等について調査し、再審の請求を受理すべきかどうかを決定すること、再審の理由が認められないときは、右請求を受理することができず却下され、再審の理由があり右請求を受理したときは、請求の範囲内において再審を行い、再審の結果最初の判定を正当と認めるときは、これを確認するものとし、不当と認めるときは、最初の判定を修正し又はこれにかえて新たな判定を行うものとされていること、また、最高裁判所は、前記再審の理由があると認めるとき又はその他特に必要があると認めるときは、前記再審の請求期間の定めにかかわらず職権により再審を行うことができることが規定されている。

右法律及び規則の規定を一見すると、再審の請求は、行政不服審査法上の審査請求、その他の不服申立、すなわち行訴法一四条四項所定の審査請求に該当するかのごとくであるが、右審査請求等は、申立の理由に限定がなく、あらゆる違法・不当事由を主張して不服を申立てることができるのに対し、再審の請求は、右規則五七条各号所定の理由がある場合に限り許されるものであり、その理由は、民・刑事訴訟法上の再審の場合(民訴法四二〇条一項、刑訴法四三五条参照)と同様に極めて厳格であつて、右理由が存する場合にのみ、再審の請求が適法であるとして受理されるのである。さらに、行政不服審査法における審査請求等においては、当該処分に不服を有する被処分者のみが審査請求等をなし得るのに対し、再審の請求は、被処分者は勿論のこととして、処分者の側からもなし得る点において相違し、加えて、当事者による請求の外に最高裁判所が再審の理由が存するとき又はその他特に必要があると認めるときは、期間の制限を受けることなく職権によつて再審を行うことができるとされているのである。右のように、再審の請求は、行政不服審査法上の審査請求等とはその実質において著しく相違し、同法の予定しない特別の救済手続といわざるを得ないのである。

よつて、国家公務員法九二条三項、人事院規則一三―一第七節に規定する再審の請求に対する判定は、行訴法一四条四項に規定する裁決に該当しないものというべきである。

なお、附言するに、審査請求がなされることによつて出訴期間が延びるのは、審査請求が適法な場合に限られる(最高裁昭和三一年三月九日第二小法廷判決民集一〇巻三号一七五頁参照)と解すべきである。けだし、行訴法一四条四項の法意は、行政処分に対し適法な審査請求がなされ、その処分の違法性等について審査されている場合には、その結果をまたないで司法上の救済を強要し、或いは期間の経過により処分又は裁決に形式的確定力を生じさせることは不合理であるとの考えから、右審査請求に対する行政庁の応答があるまで出訴期間を進行させないとすることにあるのである。従つて、仮に再審の請求が行訴法一四条四項所定の審査請求に当ると解したとしても、右再審の請求が適法なものでなければ出訴期間が延びるものではないところ、再審の請求が適法であるためには、手続上の瑕疵が存しないことと共に、再審請求の要件である再審の理由が存することを要すると解すべきであるから、再審の請求が再審の理由が認められないことによつて不適法として却下された場合には、再審の請求がなされたとしても、これによつて出訴期間が延びるものではないというべきである。本件において、原告のなした再審の請求は、その主張にかかる理由が再審の理由に当らないとして不適法、却下されたのであるから、本件訴えの出訴期間が再審の請求をしたことによつて延びたものと解することはできない。

そうすると、本件処分の取消訴訟の出訴期間は、最高裁判所の審査請求に対する判定を原告が知つた日である昭和五三年九月一三日から進行したものというべきであるから、昭和五四年四月二一日に提起された本件訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものといわなければならず、これに反する原告の主張は採用することができない。

二  以上の次第で、原告の本件訴えは、不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 松山恒昭 下山保男)

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